ブランドや社会の「ありたい」未来を描くために(Vol.2)

ビジネス・ブランド,研究,社会

written by Takuma Ise.

前の記事でも述べさせていただきましたが、テクノロジーが発達した社会になることや、イノベーションによって私たちの生活が便利に充実したものになること自体は素晴らしいことです。
ですが、その開発や設計段階において良い面だけではなく悪い面も併せて考えておくべきだと思います。
さらに、包括的な体験(ホリスティック・エクスペリエンス)やライフ・センタード・デザインなど、これまでよりさらに広い視点で物事を見て、実行していく力が必要なので、様々な人の知識や視点、能力などを相乗効果のある形で結集した「共創のある社会」が必要だとも記載させていただきました。

共創を生み出すには、ビジョン設計が必要

共創を生み出すためには、ビジョン設計が必要です。
ビジョンというと、いわゆるブランドや社会、個人の想いや考えに基づく思想とか世界観という意味だと思いますが、ビジョン設計はそれらの意志を持ちながら「こういった道を歩むから、こんな未来が作れる」というような未来予想図です。

まず、ビジョン設計を明確にするための要素として社会的価値と経済的価値があります。
社会的価値でいうと大きな流れとしてSDGsがあり、例えば好きなアーティストやタレントの方が取り組んでいることをSNSなどで知ったり、または現在ではSDGsを授業で学んでいる小学生も多いですし、大手メディアや企業も含め、世界的にSDGsに取り組んだり広めたりという動きがあるため一気に世の中に浸透しました。
また、経済的価値に関しても、もしかするとSDGsほどの一つの大きな波ではないかもしれないものの、生成AIの登場を筆頭としたテクノロジーの進化・発達や、エンターテイメントや各企業やブランドの商品・サービスも鎬を削りながら質の高いものが多く生まれています。
さらに、この社会的価値と経済的価値は別々として捉えられがちではあるものの、現在では官民一体となった地方創生などに見られる取り組みも増えてきたため、二つの価値が掛け合わさった事例も増えつつあります。

次に社会的価値と経済的価値を組み合わせ、実行していかなければビジョン設計もできなければ、共創も生まれません。ではどうすれば良いかというと「どんな利益があるか」の設計が必要で、それはつまり包括的な体験の設計です。
これはプロジェクトを進めるブランドや関連団体、個々のメンバーなどにどんな利益があるか、ということと、前述した通り、その取り組みやプロジェクトによってどんな利益を生み出せるか(同時にどんな不利益があるか)を考えて実行することです。
さらに利益とは、金銭はもちろん、ブランドや団体、個人の実績となるような自己実現的な価値や体験、ノウハウ、認知効果、喜びや学び、など様々な有形・無形の価値があると思います。

未来を描くロジックを持つ

主に、体験設計やスペキュラティブデザインの領域から提唱されている「未来円錐」という考え方があります。
ブランディングやマーケティングでよく言われる、As is To Beと少し類似していると思いますが、概念的にいうと「現在はAで、未来はBになりたい、だからCを実施する」というようなロジックだと思います。

画像は、実際のステークホルダーの多いプロジェクトにおいて、「①現状」→「②新たなコミュニケーション」→「③ありたい未来」という未来予想図を描いたものです。
概念的なものなので粒度は粗いですが、まずステークホルダーをA〜Eに分類し、「①現状」におけるA〜Eの方々の体験や課題を洗い出し、「②新たなコミュニケーション」をチームメンバーで話し合ったコンセプトを体現しながら課題を解決できる方法を描き、「③ありたい未来」でA〜Eの方々の新たな体験や利益を記入しました。
こうすることで、チームメンバーそれぞれの考え方やアイデアを集約することができ、結果的にチームとしては社内で会話していても、表現の仕方は違えど同じ方向性やポイントを見つめることができました。

当然ながら、プロジェクトは大きくなればなるほど人数は増えますし、色々な能力を結集しようとすればするほど、考え方や方向性をまとめるのは難しくなるケースが多いと思います。
さらに、官民の違いや、会社や団体、部署の違いなどの壁は必ずあり、そもそも個々の考えを持った大人が集まるのであれば、そもそも一枚岩になることを目指すこと自体が難しい課題ではないかと個人的には思います。ですが、だからといって諦めるのではなく、それぞれの利益やモチベーションが組み込まれた考え方、そして無理に意見を一つにするのではなくいろんな意見や個性があっても良いが、一番重要な焦点やありたい同じ未来を一緒に見つめることができれば、本当の意味での共創が生まれ、またそれが続いていくのではないかと思います。

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