ブランドや社会の「ありたい」未来を描くために(Vol.1)

ビジネス・ブランド,研究,社会

written by Takuma Ise.

ブランドや社会、または自分自身にとって「こうあるべき」「こうありたい」という未来は誰しも持っているはず。「あるべき」と「ありたい」。大きな違いはないですが、おそらく意志の話だと思います。
そして、なんとなく願うだけではなく、意志を持ってできるだけより良い未来になるように、考えて実行してということが必要になってくるからこそ、「ありたい」を実現する体験設計というものが必要なのではないでしょうか。

改めて「体験」とは何か?

UI / UXが大切だと言われ続けて久しいですが、改めて体験とは何か。
UI(ユーザーインターフェイス)は元々、英語でいうinterface=「接点」「境界面」に由来し、主にWEBサイトやアプリなどをユーザーがその商品情報やサービスに触れる際の体験を指すので、おそらく現在ではインターフェイス=画面のデザインや操作性という意味合いが強くなっており、UXは、そのUIはもちろん、そこから感じるブランドのイメージや他の情報などを通して、ユーザーがどういう体験をできたか(ジョブを解決するなど)のUIよりも少し範囲やレイヤーを拡張した概念を指します。

どこに重点をおいて体験を設計するか?

細かくいうと、プロジェクトの目的や商品・サービスのコンセプトによって、また、どういった価値を提供するために設計するかによって、どこに重点をおいて体験を設計するかはもちろん変わります。
ですが、説明のためにもう少し抽象的にするとあくまでも「人間」に重点が置かれます。
国際規格ISOにも記載されていますが、人間中心設計(HCD:ヒューマン・センタード・デザイン)が何年も前から叫ばれており、これはいわゆる「人間=ユーザーを中心とするモノづくりのこと」で、つまりは人間にとって使いやすいように設計・実装しようというお話です。

また、過去にプロダクトアウトで商品・サービスが量産され、ある一定期間は潤ったが時代の移り変わりによって、マーケットイン型の商品・サービスの開発に変わっていったことにも、HCDという考え方が生まれた要因があると思いますが、一方で昨今ではプロダクトアウト型の価値も見直されてきています。
ただ、どちらが良いかはケースバイケースなので、いずれの生産方式であってもユーザーの体験をしっかり考えて設計しないと、ブランドの商品・サービスの価値が最大限発揮されないということに変わりはないと言えるでしょう。

包括的な体験の設計

では、ユーザーを中心に考えるとしても、ユーザーだけのことを考えれば良いのかというと、やはりそうではありませんし、アプリケーションによってはいわゆる一般ユーザーだけの使い勝手や体験だけでは不十分です。
少し具体的にいうと、例えば宿泊施設の予約サイトがあったとして、一般ユーザーであるお客様の予約タスクに関わる、条件検索や割引の有無、空き状況、支払いなどがわかりやすく使いやすい状態でないと予約する前に離脱してしまうのでとても重要なのはもちろんですが、バックヤードである宿泊施設側の使いやすさも当然必要ですし、管理者が別にいる場合はその方の作業範囲の把握や対応も必要です。
つまりは、現在ではプロジェクトに関わるすべての人のタスクや体験を考慮し設計する必要があり、最近ではホリスティック・エクスペリエンス(包括的体験)が重要だとされています。
この考え方において、関係者(=ステークホルダー)と捉えられる範囲で設計するというのをベースとしながら前述の宿泊施設を設計するのであれば、一般ユーザーや受付処理を行う現場スタッフ、それを把握する管理者などの関係者が考えられますが、これが例えばコーポレートサイトであれば、サイト訪問者はもちろん、企業側の経営者や役員、広報担当者や各部署のスタッフ、株主・投資家の方々など非常に多くのステークホルダーの体験を設計する必要があります。

さらに広がる体験設計の範囲。
そして、共創のある社会へ

さらに話を広げてしまうようですが、前述の人間中心設計(HCD)をより視点を広げた考え方として、Life Centred Design(ライフ・センタード・デザイン)という、すべての生命を中心に据えて設計するという考え方も出てきています。
※もちろん前提として、人間社会における商品やサービスを考える際に人間中心設計は重要でありケースバイケースで人間を中心に据えるべきことは多々あると思いますので、この考え方が間違っているというようなお話では決してありません。

さらにさらにとなってしまいますが、AIなどテクノロジーがもっと発達した社会になると完全なデジタル社会の中で人間がどう生きていくか。
また、SDGsの中にも設定されているゴミ問題は大変な課題ではありますが、SpaceX社の宇宙産業事業に目を向けてみると、地球上のゴミとは意味が違いますが、宇宙にもゴミ(スペースデブリ)があることにも気付かされます。

話をどんどん広げてしまいましたが、何が言いたいかというと、私たちの生活がより便利になったり、イノベーションが起きる社会は素晴らしいと思いますが、それだけでは豊かになる(より良い体験がある世の中)とは限らないということです。

体験を設計するにあたり目的によって対象範囲を決めてしまえば良いだけの話かもしれませんが、商品やサービス、プロジェクトの規模や能力、影響力などによって、必然的に背負う責任が深く、もしくは大きくなります。
だからこそ、その開発や設計段階においてポジティブな面だけではなくネガティブな面も併せて検討するべきです。そして、そうでないと現代社会に求められている包括的な体験は生まれないと思いますし、だからこそ様々な知識や視点が必要になるため、「共創のある社会」が必要なのではないでしょうか。

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