ブランド構築に大切な「バリュー設計」
ビジネス・ブランド,メッセージ,研究
written by Takuma Ise.
世の中には、化粧品や洗剤、飲料水、コーヒーなどの商品や、またはそれらを提供する店舗やECサイトなどのプラットフォームなどのサービスが存在します。そして、消費者はブランドが提供する様々な商品やサービスに何かしらの価値を感じるから興味を持ち、購入・利用しています。
当然ながら、価値を感じてその対価として自分のお金や時間、手間などと交換するという原理は、場所や時代を問わず大きくは変わらないと思います。しかし一方で、同じようなターゲットや商品、サービス、マーケットを持つからといって、ブランドオーナー側が提供している価値や、ユーザーが感じている価値が同じとは限りません。
なぜなら、ブランドと消費者が接触する際、ブランドオーナーによって作り出す商品やサービスは当然それぞれで、また消費者としてもシチュエーションやニーズ、インサイトはターゲットによってもちろん違うので、似たもの(大きく分類すると同じ)であっても細かくいうと二つとして全く同じブランドと消費者のコミュニケーションはないからで、だからこそブランド自身が提供している価値や感じてもらっている価値を正しく認識し、ブランドバリューを設計しておかなければならないのです。
他の記事でもブランドの持つ価値(ブランドエクイティ)について触れさせていただきましたが、この記事ではより消費者の行動に近いレイヤーでブランドの価値を見つめていこうと思います。
人はブランドの何に価値を感じているのか?
では、消費者はブランドの提供する商品やサービスの何に価値を感じているのか。
ユーザー側からすると、飲食だと味、ファッションだと着心地、自動車だとステータスなど様々で、ブランドオーナー側からしても、自社ブランドの良い点を挙げたり、競合ブランドと比較したりする場合でも感覚的に挙げていくとキリがないように感じますし、抜け漏れが出てくるはずです。
そういった時に価値の分類を行うと整理しやすく、また価値を届けやすくなりますが、一つの手法としては「情緒的価値」「機能的価値」「自己実現価値」に分類することです。
「情緒的価値」:
ユーザーがブランドの商品・サービスに対して感じる感覚的・精神的な価値。
自動車の場合、「ラグジュアリー」「高級感」「カワイイ」「レトロ」などです。
「機能的価値」:
商品やサービスの機能や性能そのものの価値。
自動車の場合、乗り心地や定員、トランクのキャパシティ、燃費の良し悪しや事故防止機能などです。
「自己実現価値」:
ユーザーがそのブランドを通して起こせる変化やどういう自分になれるかという価値。
自動車の場合、高級車に乗っているステータスだったり、アウトドアが趣味ならそれをより加速してくれる車だったり、家族旅行をより楽しく快適にしてくれるファミリーカーなどです。
メタ認知視点で捉えるための「ブランド・バリュー設計」
前述の通り、「情緒的価値」「機能的価値」「自己実現価値」に分類することで、提供している価値がどういったものかは整理できたと思います。
しかし、これらの価値を定義できたとしても、ブランドオーナー側だけで検討したのであれば、まだ一方通行の提供価値になってしまう可能性があるので、今や当然のことになりましたがあえて言うと、あくまでも消費者視点で提供価値を捉えることが大切で、その視点で考案したフレームワークが画像で示しているものになります。
ご紹介する「ブランド・バリュー設計」は、消費者・ユーザーの視点(検討やブランド体験、評価する工程において)でブランドの価値を具体化したり、見つめ直すためのフレームワークで、以下のロジックを参考に組み合わせ、プラクティスや実践でブラッシュアップしながら考案したものです。
・ブランドの価値の分類(情緒的価値、機能的価値、自己実現価値)
・UX白書でも紹介されているUXのタイムライン(予期的UX / 一時的UX / エピソード的UX / 累積的UX)
・スタンフォード大学のB.J. Fogg氏が提唱したフォッグ式消費者行動モデル(FBM)
以下、当フレームワークの補足説明となります。
【フェーズ全体の考え方】
・前述のUXのタイムラインを参考に「期待フェーズ」「体験フェーズ(実際にユーザーが商品やサービスを体験する)」「評価フェーズ」という形でカスタマイズしています。
【① 期待フェーズ】
・前述のFBMを活用させていただいておりつつ、ラベル名を少しカスタマイズしています。
・トリガーに関してはもちろん購入を促すものでなければなりませんが、購入していただければなんでも良いのではなく、次の体験フェーズで提供する3つの価値(少なくとも一つ)につながっていなければなりません。なぜなら消費者はブランドを通して体験する価値を期待して購入するからです。
・もちろん消費者にはブランドの価値を理解していただき、購入していただけるコミュニケーションを期待フェーズで取ろうとすると思いますが、購入されなかった理由の考察や、例えば欲しいけど金額が高いから買えないなど「条件」が購入の壁になっていないかなどの消費者視点でのネガティブな考察をすることが大切です。
【② 体験フェーズ】
・ここはそれぞれの価値に沿って、重要なものだけを書き出しても結構ですし、細かく書き出してその後より重要なものだけを残すなどでも結構です。少し重複しますが、このパートも期待フェーズのトリガーと連携しているかが重要です。ですが、観点として重要なのは、メディアやコミュニケーション方法によりますが、全ての価値をユーザーに届けても認知心理学のマジカルナンバーで言われるように、ユーザーが短い時間で多くの数を全てを把握するのは難しく、加えて長期記憶に残すのはそもそも困難なので、伝えるブランドの価値はある程度絞る必要があると思います。
【③ 評価フェーズ】
・ユーザーエンジニアリングやアンケートなど、どう評価するかは様々ですが、その結果をポジティブな面とネガティブな面で考察しながら、各フェーズで行なっているブランドアクションと照らし合わせながら仮説を立てます。
ご覧いただければお気づきかと思いますが、このフレームワークはあくまでもブランドの価値を把握するためのものであって、この前段にあるブランド定義や調査、後工程にあるクリエイティブや施策の実施を円滑にしたり、ブランドバリューを再整理するためだけのものです。
しかし、実際のいくつかのプロジェクトでも導入してみて気づいたこととしては、希望的観測だけではなく、消費者・ユーザー視点でネガティブな面で見つめ直すことの大切さや、素敵なブランドや競合の強いブランドと比較するために記入することで見えてくることもありました。
ですので、ブランド=意味や意義とするならば、ブランドオーナー側の想いはとても重要だという前提ですが、消費者・ユーザーや競合ブランド、社会における自ブランドの価値や存在意義など、一歩でも少し引いたメタ視点でブランドを見つめ直してみると、より良いブランド活動につながるのかもしれません。