身体的負荷は時間の感じ方に影響を与えるか
コンテンツ
written by Tetsuya Takahashi.
実験してみよう
前回、実験した感覚的な時間の早さの変化について、画面内の体験だけではなく、実際になにか行動・運動している場合にどのように感じるのか、フィジカルな方法で実験してみました。
身体的な疲労や苦痛を感じていると長く感じ、反対に楽だと感じる場合は短く感じるのではないかという仮説のもと、被験者に苦痛と快楽を交互に与える実験をして検証します。
比較的ハードルの低い運動である「ナワトビ」を採用し、制限時間内に何回飛べるかを競う大会として参加者を集めました。
60秒の跳躍の後、60秒休憩、その後さらに60秒飛んでもらい、合計の回数を競います。跳躍休憩ともに30秒時点で「30秒経過」の告知を行います。
実験方法としては、事後アンケートで時間の長短や肉体疲労等に関するヒアリングを行いその傾向から身体的な疲労が時間の体感速度に与える影響を見ようというものです。
参加者はどう感じたのか
アンケートの設問は下記の通りで、選択肢は、跳躍1回目・休憩・跳躍2回目✕それぞれの残り時間告知前後の6択と、その理由を問いました。
- 競技中、最も長く感じたのは?
- 競技中、最も短く感じたのは?
- 競技中、最も辛いと感じたのは?
- 競技中、最も楽だと感じたのは?
仮説では肉体的な疲労と時間の体感速度が関連すると考えていたため、跳躍と休憩、それぞれの経過時間告知前後での偏りが発生することを予想していたのですが、アンケート回答ではその傾向は現れず、バラバラな回答が集まりました。
▼ 集計表(単位:名)
感覚に影響を与えていたものとは
フリー回答の内容を紐解いてみると、参加者によって大会(勝利)にむきあうモチベーションが違うということに気づきました。そのモチベーションの違いにヒントがあると思い、時間の長短の回答を比べてみます。
(例)
- 参加者A
- 最も短く感じたタイミング:跳躍2回目の残り時間告知後
- FA:もっと跳ばせてくれ
- 最も長く感じたタイミング:休憩の残り時間告知後
- FA:体力に余力が少しあったので休憩が長く感じた。休憩が30秒なら私が圧勝していた。笑
- 参加者B)
- 最も短く感じたタイミング:跳躍1回目の残り時間告知後
- FA:できるだけ多くの回数を飛びたいと思っていて、残り時間の短さに焦りを感じていた
- 最も長く感じたタイミング:跳躍2回目の残り時間告知後
- FA:残り時間告知後にラストスパートをかけようとしてから、長く感じ始めました
- 参加者C)
- 最も短く感じたタイミング: 休憩の残り時間告知後
- FA:縄を変えたりみなさんと話していたら、体力の回復を感じられないまま残り時間のアナウンスがあり、「もう始まってしまうのか」と絶望的な気持ちに
- 最も長く感じたタイミング:跳躍2回目の残り時間告知前
- FA:2回目はコツが掴めて引っかからずに飛べたので体力の消耗が激しく感じた。飛んでいる最中は「引っかかからずに飛ぶとこんなに長くて、まだ終わらないのか。体力が限界だ、早く終わって!」という気持ち。 残り時間を聞いたら、ほっとして「ラスト頑張ろう!」と気持ちを切り替えられた。
仮説では「肉体的に辛い→長く感じる」という程度のことを考えていましたが、参加者のコメントから見えてきたのは、そのようなシンプルなものではなく、「肉体的に辛い」に加え自身がどういう姿勢で向き合っているかという心理状況が、時間の感じ方を左右しているということでした。
さらに、感じた時間の長短とコメントとを比較すると、前回の記事(視覚情報から引き起こされる時間感覚の変化)で言及していた「追われる(迫っている)」or「待たされる」のどちらの心理状況であるかということが、時間の感じ方に影響するという仮説に近い傾向が現れていました。
▼当初の仮説のイメージ
▼実験結果から見えたイメージ
その行為が単純に苦痛かどうかではなく、どのようなモチベーションで向き合うかという心理的な要素のほうが、時間の感じ方に対する影響は大きいようです。
コンテンツなどに展開するのであれば、はじめに触れる情報でモチベーションを設定することで、その後のコンテンツに触れた時に、その長さの感じ方をある程度コントロールすることができそうです。
トップ