ブランドパーパスに基づくブランド体験のデザイン

ストーリー,デザイン,ビジネス・ブランド,メッセージ

written by Kazuki Tomita.

ブランドの広告やWEBサイトなど「体験をデザインする」ということにおいて、どういう視点が必要なのか。
ブランドの重要なコミュニケーションの一端を担う役目を負った時、出来得る限り自分が考える最高のアウトプットを出したくなるかもしれない。しかしこの時、「最高のアウトプット」とはそもそもどういうものなのか?ということについて、ひとつ客観的な指針を持っておかなければならない。作り手であれば尚更、自分にとっての最高だと思っていたモノは他の人には全く最高ではないという事実がよくある。自分にとっての最高を求めた結果、ブランドのビジネスになんら関係も影響もない、歪なモノができることがよくある。これはデザイナーに限らず、クライアントを含む開発に関わるすべての人が注意しなければならないことでもある。確実なデータがあるか、アーティストとして特殊なアウトプットを求められていない限り、自分の個人的な感性をあまり信じない方が良い結果につながることが多い。
ビジネスとして考えれば、ビジネスには具体的な目的や目標が確実に存在するので、ビジネスにおいてのコミュニケーションの最適解は、誰もが同じ共通認識を持ちながら、その良し悪しを判断する方法がある。

ブランドのビジョンやパーパスへの理解が、理想の体験を生み出すために重要

ブランドのコミュニケーションを開発する際にまず考えなくてはならない項目。

・ブランドビジョン / ブランドパーパス / ブランド戦略
・今回の施策の目的は何か(ブランド認知、新規顧客開拓、ロイヤル顧客育成)
・対象ターゲットは誰か(年齢、性別、価値観、状態)
・ブランド資源は何か(サービス&商品のPOD、競合優位性)
・施策結果目標値

この5つの項目にコミュニケーションの辻褄が合っていれば、ビジネスとしては精度の高いコミュニケーション開発ができるのではないだろうか。
中でも一番大事なのは、全てのブランド体験(コミュニケーション)の軸となる、「ブランドのビジョンやパーパスに沿ったコミュニケーション」が行えるかどうか。
弊社事例の「オグラ眼鏡店 -こどもメガネアンファン」さんとの事例をもとに一部要点をまとめてみた。

アンファンのブランドコンセプト

〈 コンセプト 〉
こどもメガネアンファンは「メガネは医療機器」 と考えます。体の成長とは違い、目の機能は8歳ごろまでにほぼ完成します。そういう大切な時期だからこそ、目の正しい成長を助けるメガネが必要となるのです。こどもメガネアンファンでは「メガネは医療機器」というコンセプトと長年のノウハウに基づき、安全で、元気な動きにもフィットし、かわいい表情をいっそう引き立てるメガネやアイテムを小児眼科専門の先生と一緒につくりました。

〈 機能性 〉
アンファンのオリジナルメガネは、お子さまの顔の輪郭を研究し、かわいらしい表情を活かす為にデザインされた、お子さまのためのシリーズです。お子さまの顔にぴったりとフィットし、どんな元気な動きにもしっかりと正しい位置を保てる工夫がなされた機能性重視フレームは、活発なお子さまがかけても安心です。

〈 デザイン 〉
よいものを見る目や色彩感覚は、小さなうちから育てたいものです。アンファンでは、デザイン性の高いオリジナルフレームや、ヨーロッパからの直輸入フレームなど、センスあふれるこどもメガネがいっぱいです。好評展開中のファミリーコレクションは、お子さまがかけやすいための工夫のなかに、さらにお揃いの機能やデザインコンセプトをプラス。家族みんなでおしゃれを楽しめます。

こどもメガネ アンファンさんのブランドコンセプトやブランドのPODから、ブランドの目指す理想の世界や状態を下記のように整理してみる。上記の文でもある程度イメージは付くが、できるだけシンプルに整理することで、チーム間での解釈の余地を狭めることが、大きな組織で動く時にはものすごく重要になる

アンファンブランドが目指す理想の世界(※意訳)

・子供の健やかな成長を促す、笑顔あふれる世界
・子供の個性や自己表現が自由に育まれている世界
・子供の大切な経験機会が、視力の低下により阻害されない世界

ブランドの目指す理想の世界や状態を整理したことで、ブランド体験の要点を、誰でもすぐに少し分かりやすくなった。この項目がブランド体験=コミュニケーション開発をする際に大きな指針となる。そして逆に、ブランド体験として、矛盾してしまうような状態は何か?も定義しておくことで、コミュニケーション開発の精度をよりコントロールすることができる。

ブランドビジョンから体験矛盾・ブランド毀損に繋がる状態

・眼鏡専門店なのに、コミュニケーションが視覚的に認識しずらい状態
・コンテンツが分かりにくく、十分理解できない、楽しめない状態
・機械的なコミュニケーションで、つまらない状態

ブランドビジョンやパーパスに沿った、デザイン開発

〈 中吊り広告 | 書体視認性検証 〉

先ほどまとめた「アンファンブランドが目指す理想の世界」の定義から、各コミュニケーションを開発していく。アンファンブランドの場合、弱視ユーザーへのコミュニケーションが大きな割合を占めるので、「書体」の設定がものすごく重要になる。広告コミュニケーションにおいても、野外で展開されるため、文字の可読性への配慮は十分にしながらも、機械的ではない、ブランドらしい体験(※アンファンブランドが目指す理想の世界に繋がる)ができるように様々な書体をテストしながら、一番目的に合致する書体を決めていきます。この時の書体選定での要点を以下にまとめる。

・書体の視認性が悪く、子供の体験機会を阻害してしまう書体は、ブランドが目指すビジョンに矛盾してしまうので使用しない
・視認性が良いだけの機械的な書体ではなく、子供の個性を楽しめるユニークさが感じられる書体を採用する

〈 WEBサイト | 他コンテンツ書体トンマナ検証 〉※サイト上のコンテンツは眼科専門医の監修を受けています。

また、広告に限らず、ブランド全体の体験として考えた時に、一部のコンテンツのみに特殊な書体を使用するのではなく、WEBサイト上や様々な属性のコンテンツに対しても同じ書体がうまく機能するかの検証も必要。コンテンツごとにあからさまにブランドイメージが変わってしまうと、ブランド体験としてもチグハグなものになってしまうので、できる限りデザインルールは統一されている方が理想的である。

視認性を重視したアンファンらしいイラストレーション開発

書体の他にも、イラストレーション開発の方にも条件を当てはめてみると、よりブランドらしいブランド体験に繋がる。イラストレーションで言えば、秋山孝さんが創られたブランドロゴの世界観が既に存在するので、棲み分けが難しいが、ブランドビジョンに沿ったイラストレーション開発の要点を以下にまとめる。

〈 子育て世代向け弱視啓蒙コンテンツ | イラストレーション 〉

・イラストの縁取りを強めに行うことで、形や動きを直感的に捉えられやすくする工夫し、弱視ユーザーでも形が分かりやすいテイストを採用
・機械的な、インフォグラフィックのような綺麗な線では、こどもの自由な発想や発達を願うブランドとしてはやや「手触り感」や「創造性」が弱くなってしまうので、手書き感のある線を採用
・カラーリングもメリハリのあるビビットな配色を採用

以上「ブランドパーパスに基づくブランド体験のデザイン」の一部紹介になるが、実際には、ユニバーサルデザインの技術はもっともっとシビアな専門知識や研究が必要な項目でもあるので、全てが完璧ではないが、そういった視覚コミュニケーション研究をブランドと共に追求し、ブランドのビジョンやパーパスを実現していく取り組みができると、社会にとっても豊かな体験が提供できるし、ブランドのビジネスとしても大きな意義を生み出せるかもしれない。

ブランドは、ブランドビジョンやパーパスに沿った、ブランド体験を提供することが大切である

この記事に共感しくださり、「ブランドビジョンやパーパスに寄り添うブランド体験」の可能性を試してみたい企業・ブランド様がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。

トップ