区別から象徴へ。ブランドシンボルが生み出すもの

ビジネス・ブランド,メッセージ,研究

written by Takuma Ise.

ブランド(BRAND)という言葉の由来は「烙印」と言われています。
詳細な言葉の誕生や流通は諸説ありますが、スカンジナビア人によって使われていたといわれる北欧の古い言語の「BRANDR(ブランドル)=焼き印をつける」や、英語の「Burned(バーンド)=焼印を押す意」に端を発し、自分の家畜と他人の家畜を区別するために、牛や馬などに焼印を押していたことに由来します。そしてそれから、商品やサービス、商標、銘柄などを「brand(ブランド)」と呼ぶようになったというのが有名な説です。

このようにして、先人は個々のマーキングで家畜を区別していましたが、現代では他との差別化はもちろん、ブランドロゴをはじめ、あるシンボルを見たり聞いたりまたは感じたりすると、そのブランドの情緒や機能を想起するようになりました。
つまり、ブランドのシンボルは、区別するための単なるマークから、そのブランドの商品やサービス、そのブランドを通して自分が何を体験できるかという概念を集約した象徴に変化し、計画的かつ継続的に地道に行なっていかなければならないブランディング活動の中でも、ブランド価値に直接的につながるものになったと言えます。

様々なブランドの象徴的体験の作り方

ブランドシンボルというと、企業やブランドのロゴを想起すると思います。
もちろん圧倒的にそのコミュニケーションが多いので間違いではありませんが、CI・VIや広告などの視覚的コミュニケーションだけがブランドシンボルというわけではなく、聴覚に訴えるCMなどのサウンドロゴやプロダクト操作音、商品の食感や触感、プロダクトやショップなどにおける香りなど、人間の五感とつながるようなコミュニケーションを取っているブランドは少なくないです。

【視覚】デ・ブランディング(debranding)
世の中には数えきれないロゴデザインがあるのでここだけでは語りきれませんが、スマートフォンのiOSなどに特徴的に見られるフラットなデザインはロゴデザインでも数年前からの大きな流れではないでしょうか。その中でも自動車ブランドは、メカニカルなイメージを持つため3D的なロゴデザインが様々な業界と比べても最後の方まで残っていた印象を個人的には持っていますが、その自動車業界でもTOYOTAやフォルクスワーゲンのロゴに見られるように社名を取り除きシンボルマークだけにする流れがありました。
これはいわゆる「デ・ブランディング」と言われる手法で企業色を極力取り除き、ユーザーの生活の中に馴染ませるという効果があります。この手法は自動車業界だけではなく、よく例に挙げられるスターバックスやNIKE、Appleなどのロゴコミュニケーションに見られる手法です。
(NIKEの場合、商品によってはあえてNIKE+Swoosh、レガシーな風車マークなどを使っていたり、Appleに関してはかなり早く「Macintosh」は使用しなくなった記憶ではあります)
また、生活に馴染ませるというだけではなく、そのブランドを独立させることで親となる企業ブランドとあえてイメージを切り離し、ブランドイメージを強めるという意図や効果があり、元々は西友のプライベートブランドからスタートしましたが今やそのブランドイメージを確立したMUJI(無印良品)やダスキンが運営するミスタードーナツが代表的で、最近ではTOYOTAのレクサスやNIKEのジョーダンブランドなどが知られており、シャドーブランディングとも言われるその手法は続々と世の中で活躍を見せています。

【聴覚 / 条件反射】パブロフの犬
「パブロフの犬」とは、生理学者のイワン・パブロフによって実験・提唱された、犬にベルを鳴らしてえさを与え続けると、ベルを鳴らしただけで犬がだ液を分泌するようになる生理現象。
この実験は例としては少し極端かもしれませんが、おそらく多くの人がサイレンや警告音を聞けば、大小はあれど危険を本能的に察知しようとすると思いますが、SONY PlayStationのCMで流れる印象的なサウンドやMacの起動音、マクドナルドのCMサウンドやポテトフライヤーのいわゆる「ティロリサウンド」など、ブランドを想起・差別化するサウンドから食欲につながるサウンドまで様々です。もちろんコンセプトムービーなどのBGMで流れる楽曲も選曲によってブランドイメージが変わりますし、楽曲やシチュエーションによっては、音楽だけで条件反射的に情緒にスイッチが入ることもみなさんご経験があることでしょう。
また、あえてリスクに触れるとすれば、うまく印象とトリガーを作ることができればブランドにとって強い武器となりますが、逆にいうと一旦根付いた印象は変えにくいという側面もあるため、諸刃の剣であるという認識も持ちながら計画・実行していくことが大切だと思います。

【体験創造】レッドブル(Red Bull)
前述の例とは違った側面での印象作りとして、レッドブルの体験創造が挙げられるのではないでしょうか。
レッドブルは公式にも「アクティブなライフスタイルを持つ人たちのための革新的な機能性飲料」と謳っているだけあって、スポーツスポンサーとしての投資も余念がなく、現時点では詳しくは分かりかねますが、一時は売上の10%を投資しているとの噂もあったほどです。
さらに個人的な憶測ですが、手当たり次第スポーツスポンサーになっているのではなく、商品であるエナジードリンクの利用シチュエーションの一つでもある「テンションやモチベーションを上げる」シーンを想起させるような、危険を伴う場合も少なくないチャレンジングなストリートスポーツや、ウインタースポーツ、レーシングなどの熱狂を伴うスポーツに焦点を当てて活動をしているように見受けられ、事実世間の印象としてもレッドブルに「挑戦」「アクティブ」などの意味を感じている方が多いのではないでしょうか。

ブランドシンボルの答えは「伝言ゲーム」?

このようにブランドの印象作りにはいくつか手法があり、ご紹介した手法や例はごく一部であり、さらにいうと全てのブランドが真似しやすいかというと必ずしもそうではありません。
なので、どのブランドも自ブランドの象徴的な体験やシンボルを捉えて磨きながら伝えていくしか近道はないと思いますので、ヒントになりやすいのはどちらかというと、成功しているブランドの象徴的体験の作り方よりも、結果どうなっているのか、かもしれません。

「結果どうなっているのか」とはどういう意味かというと、印象作りに成功しているブランドに共通しているのは印象作りの出口として「いかに人に伝えやすいか」ではないでしょうか。
前述の著名なブランドのイメージが、長い時間と労力をかけて繰り返し世の中に伝え続け、築き上げてきたのは言うまでもありませんが、これらのブランドのほとんどが何かしらの方法で簡単に間違いなく人に伝えられると思います。ブランド名やロゴマークのみで伝えられるのはかなりトップクラスのブランドではありますが、そうでなくても良いブランドであれば「〇〇と言えば?」と言われたらいくつかのブランドに絞れて、加えて特徴や差別化できる印象を一つでも伝えられたらほぼ間違いなく伝わるとはずで、語弊を恐れずに言うと伝言ゲームでも間違いなく伝わるブランドはもしかすると強いブランドかもしれません。

また、なぜ人に伝えやすい印象を持つブランドを目指すべきなのかというと、
一つ目は、人に伝えられるレベルでそのブランドを認識・理解しているということは、それだけその人の頭の中にブランド(意味や意義)が生きているという証拠だから。
二つ目は、ブランドオーナーにとっては、今や仕事だけではなく可処分時間を過ごすにも動画やSNSをチェックしたりと非常に忙しくなってしまった現代人と対峙しなければならず、さらに各業界でもコモディティ化が進み差別化が難しくなったこの時代だからこそ、ブランドの印象作りは非常に重要な戦術の一つだからです。
そして、三つ目に「人に伝えやすい印象を持っている」ということはおそらくそのブランドは愛されているからです。興味がない場合はそもそもそのブランドのことをほとんど知らないし、好きではない場合もネガティブな意見を持っている以上、人に伝えやすくはない(伝えたくない)からです。

簡単にまとめると、ブランドの意味や意義をしっかりと伝え続けながら、差別化できる強い好印象を消費者・ユーザーの頭の中に作っていく。そうすることで人に伝えやすい印象を持ったブランドが生まれ、どういった経路で広がっていってもブランドの意味や意義のブレが少なく、結果として大きく強いブランドに育っていくのではないかと考えています。

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