「感動」のそばにあるブランド

コンテンツ,ストーリー,ビジネス・ブランド

written by Takuma Ise.

ブランディング活動において、ユーザーに「感動」を届けるのは本当に必要なことなのでしょうか?売れるブランドを作るにはユーザーが求めるサービスや商品さえ提供すれば良いのではというご意見もあるではないでしょうか?
たしかに自分自身の経験としても、必ずしも感動したから必ずそのブランドの商品やサービスを購入するかというと購入する理由が必要であって、その場で必ず購入するとは言い切れません。
ですが、人間は常に本能的に感動をどこかで求めているものだと思いますし、感動が起きた時にそばにいるブランドのことは記憶していますし、好意を抱く傾向にあるというのは言い切れると思います。

なぜブランディングに感動が必要なのか?

まず、感動について言及する前に、簡単に定義させていただくと、「感動=期待を越えた際に生まれる喜び」です。具体的には普段の生活をご想像いただければと思いますが、例えば、夕食(カレー)の用意をしようとスーパーマーケットに買い物に行ったとして、「実際の体験」と「買い物に行く前の期待」にフォーカスして分類すると、以下の形が考えられます。

・不満(期待>実体験):
 いつもより牛肉が高くて豚肉で妥協、スタッフさんが何か冷たく感じた。
・満足(期待=実体験):
 必要な食材もイメージ通り揃って、スタッフさんの対応も違和感がなかった。
・感動(期待<実体験):
 必要な食材もイメージ通り揃い、偶然前から飲みたかった銘柄のお酒が安く手に入った上に、スタッフさんの接客がスムーズでとても感じが良かった。

おそらく印象としては、できれば感動を提供できるブランドを目指した方が良い、と感じた方が多いのではないでしょうか?
ここで何をお伝えしたいかというと、一つは、一言に感動といっても、必ずしも涙を流して心が震えるほどの体験だけが感動ではないということ。
もう一つはユーザーが満足するサービスや商品を提供するのは、それだけで素晴らしいことです。ただし、満足を提供するのは簡単ではないにも関わらず、ユーザーからすると満足するだけでは、ブランドに好意を抱いたり、「良い買い物ができた」というほどの印象には至っていない可能性があるということです。
つまり、感動の種類は様々ですが、感動を伴うサービスや商品、体験を提供できないとユーザーの頭の中で生き残っていけないからこそ、ブランディング活動に感動は必要なのです。

コンテンツに存在する「感動」を分解してみる

世の中に「感動」に関するロジックやフレームワーク、解釈が存在しますが、ここではできるだけわかりやすい分解を目指します。

感動が起きる条件】
①「肯定的状況」:
感動のトリガーが機能する状況が必要です。仮に可処分時間を気楽に過ごそうとしているユーザーに対し、コンテンツに登場するモデレーターがすごく真面目な印象だと難しく感じてスキップしてしまうでしょう。また、ユーザーがWEBサイトで何かを探しているときや映画を見ようとしている場合はコンテンツに向き合う能動的な姿勢になっていますが、広告などでは瞬間的にユーザーを惹きつけるようなインパクトがないとコンテンツに向き合いづらいかもしれません。

②「理解」:
ターゲットとなるユーザーの中に、予備知識や経験がないと響きません。例えば素晴らしいスポーツ選手の結果を見たり聞いたりするだけよりも、プロに入る前は無名だったけど血が滲むような努力をしたとか、プロに入ってから大きなケガをしたけれどそれを乗り越えた上での輝かしい成果だ、というような背景を理解してもらっておいた方が感動は大きいはずです。

③「視点」:
よく言われる「自分ごと化」です。コンテンツの登場人物に自分を重ねてもらえるとベストだと思いますが、例えば、「配信されている動画を見ているユーザー」という視点ではなく、配信されている動画の中に意識が没入して登場人物の感情を想像したり、ストーリーの先を予測したりという視点になっている状態です。

【感動の種類】
①「驚き」:
ユーザーの期待を超越したり、想定を良い意味で裏切ることができた場合に起こる感動。
(前述のスーパーでの期待を越える良い買い物体験や、映画やドラマのストーリー展開での裏切りなど)

②「発見」:
ユーザーが新たな知識を得たり、体験ができた場合に発生。またはこれまである事象に対して持っていた認識が覆った時などに起こる感動。
(何かを学ぶ中や人との対話の中で、新しい知識との出会いや気付き、アイデアが生まれた瞬間など)

③「共感」:
元々ユーザーが無意識または有意識に持っている考え方や認識と同調する事象に出会った際に起こる感動。
(人やストーリーとの出会いの中での共通する考え方やアイデンティティの発見など)

④「克服」:
ユーザーが抱いているネガティブな感情や経験をポジティブに塗り替えられた時に起こる、カタルシス的文脈の感動。
(仕事や趣味、スポーツなどにおいて困難を乗り越えた際の快感や、五感で感じている不快の解消など)

上記の感動が起きる条件に、ブランドの伝えたいことを乗せるコンテンツを加えると感動につながります。まとめると、感動が起きる条件(肯定的状況・理解・視点が揃う)× コンテンツ(ストーリー、WEBサイト、ムービー、イベント、サービス、商品など)=感動(①〜④のいずれか一つ or ①〜④の中の複数 or 全て)となります。

ブランドエンゲージメントの正体

どんなブランドでもコアなファン化や高いエンゲージメントを目指すと思いますが、正体の一つは「感動の積み重ね」ではないでしょうか。
例えばナイキは、衝撃を吸収する「エア」を開発し、エアジョーダンシリーズやエアマックスといったヒット商品で世界を驚かせ魅了しました。その後も常にオリジナリティやトレンドを取り入れた商品や広告展開、世界観で現在もユーザーに感動を繰り返し与え続けています。
iPhoneの開発が象徴的なAppleに関しても「Think different.」のような革命や再定義というメッセージが多く、常にユーザーに発見や驚きを与えていて、その美しさや使いやすさにこだわったデザインは今も高い共感を得ていると思います。

もう一つは「豊さ」です。
弊社の事例でお伝えさせていただくと、ume,yamazoe様の障がいや病気のある方の宿泊招待『HAJIMARI』では、活動を知っていただいた方々はもちろん、プロジェクトの関係者までもが共感・感動しアクションが起こっていますし、ストッケ様の子育てをする親の不安な気持ちを支えるブランドアクションでは、不安を抱いている方々にとって、新しい発見や気づきを作れたのではないかと思います。

私たちFICCでは「ブランド=意味や意義」と定義しており、上記の活動では、感動を伴う活動を継続していることでブランドの意味や意義を深く理解していただいていることはもちろんですが、重要な点としては、例えば「障がいを持つ方やそのご家族の旅行」や「子育てとは何か」というようなことに対する新たな気付きや問いが発生していることだと思います。そして、この世の中に存在する意味や意義に対して改めて考えたり、行動することが何気なく行っている普段の社会生活を豊かにする一つの方法だと感じています。

商品やサービスの良し悪しを判断する情報や、ブランド自体の数そのものも圧倒的に増えてきた昨今、多くの選択肢の中で選んでいただくブランドを作るには、まずは椅子取りゲームのごとくユーザーの頭の中で生き残っていかないとなりません。そのためには、ブランドの印象をユーザーにできるだけ強く持っていただき、経済的価値と社会的価値を両立しながら、感動と共にブランドの意味や意義を感じて理解していただくことが強いブランドを作るための一つの道標になるのではないでしょうか。

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