ブランディングを小さくスピーディーに始める「デザインスプリント」。

デザイン,ビジネス・ブランド

written by Takuma Ise.

「ブランディングは手間や時間、コストがかかる。」
「ブランディングは戦略からしっかり考えてから始めなければならない。」
それは事実です。

ですが、リアルな現場では優れた企画やコンセプトを上司や関係者にプレゼンテーションしてもアウトプットが想像できなかったり、ブランドの方向性がいくつかある場合は自信を持って決断をしづらいケースも少なくないのではないでしょうか。

そんな時に課題を解決する一つの方法として「デザインスプリント」という手法があります。
デザインスプリント(The Design Sprint)は、米Google社のベンチャーキャピタル部門(当時のGoogle Ventures社)が提唱した手法で、アイデア〜プロトタイプ完成までを5日間(40時間)で完了するメソッドです。

ブランディングプロジェクトの進行は、なぜ大変なのか?

プロジェクトスタート時点では「こういう風に進めたら良いかな」と事前にしっかりとプロジェクトに向き合う方も多いはず。しかし、実際のプロジェクトでは頭ではわかっていても実践するのはそう簡単ではないのも事実だと思いますし、限られた条件の中で結果を求められるという大変なミッションに直面している方も多いのかと感じます。

大変なミッションになってしまう理由はいくつかあると考えられます。
もちろんプロジェクトによって状況はそれぞれなので完全な共通項を挙げるのは不可能なものの、あえて挙げるとしたら以下が多いのではないでしょうか。

理由①:限られた条件
新規ブランドの立ち上げでも既存ブランドのリブランディングでも、限られた時間やコスト、リソースで結果を求められるので、いくら優秀な方であっても手が回らない。

理由②:プロジェクト関係者の合意
複数の意見があり、それぞれは間違っていないから決めきれない。または企画やアイデアは良いけどアウトプットが見えないからNGになってしまったなど、上司やプロジェクトメンバーとの間で納得がいく合意を得るのが難しい。

理由③:プロジェクト進行の型
後述もしますが、従来のウォーターフォール型(要件定義→設計→開発→検証)のプロジェクトの進め方がそのプロジェクトのプロセスにフィットしていない。

上記の理由が当てはまる場合、デザインスプリントの導入を検討しても良いかもしれません。
なぜなら、デザインスプリントはアイデア〜プロトタイプ完成までを5日間(40時間)で完了させるため、工数を低く抑えられるからです。また、プロジェクト関係者としてもアウトプットがあるため具体的な判断しやすくなりますし、小さく企画→開発→検証のサイクルを回せるため、フェーズ毎に進めていくウォーターフォール型と異なり、フレキシブルに軌道を修正しやすいからです。

デザインスプリントは具体にどう実施するのか?

まずデザインスプリントのプロセスですが、以下の内訳を1日8時間×5=40時間で行うというものです。
 ・1日目:理解(ディスカッション、分析、インタビューなどを通じて関係者で課題を理解する)
 ・2日目:スケッチ(抽出した課題に対し、解決方法となるアイデアを関係者で出す)
 ・3日目:決定(解決方法の決定と検証〜クロージングの内容を明らかにする)
 ・4日目:試作(プロトタイピングを行う)
 ・5日目:検証(事前に用意したヒアリング項目とプロトタイプを用いて、ユーザーテスト検証を行う)

上記に加えて、経験上注意した方が良い点があると感じているので、少し補足をさせていただきます。

【補足①:何のためのプロトタイプか?】
4日目以外のプロセスはどのプロジェクトでも大きく変わらないですが、4日目のプロトタイピングについてはプロトタイプが何か(ロゴ、WEBサイト、LP、アプリ、プレゼンテーション資料、マニュアルなど)によって、またどこまで作り込むかによって必要日数が増えることもあります。
1日でプロトタイピングを行うということで決めてしまってその中でできることを実施するという考え方ももちろんあると思いますが、大切なのは1日でプロトタイピングを行うことではなく、5日目に行う検証で得たいフィードバックに見合ったプロトタイプの内容やクオリティを用意することであって、もしそうでないとあまり意味がないプロセスになってしまうので注意したいところです。

【補足②:5日間では足りない場合もある】
前提として、デザインスプリントはそもそも理解〜検証までをスピーディーに5日間で行うというのがGoogle社の提唱であって、実際のプロジェクトにデザインスプリントを組み込む場合はクロージングまでさらに日数がかかるのは理解しておかなければなりません。どういうことかというと、5日目の検証後、浮き彫りになった課題をどうするかをチームで検討・決定し、そのまま本番のデザインなど次のフェーズに進められれば良いのですが、もう一度プロトタイプ修正を行い、検証を行った方が良い場合もあるからです。

【補足③:何のためのデザインスプリントか?】
デザインスプリントのような、要件定義〜検証・リリースまでを素早く開発をしていくプロジェクトの進め方をアジャイル開発と呼びますが、アジャイル開発型でプロジェクトを進行する場合は、予め目的をはっきりさせてプロジェクトメンバー間で合意を得ておくべきで、例えば「本番デザインの精度を上げるためのデザインスプリント」なのか「ブランディングの方向性を確定させるためのデザインスプリント」なのか、といった具合です。
なぜかというと、「本番デザインの精度を上げるためのデザインスプリント」ということであれば補足②でお伝えしたように、得たかったフィードバックを得られたらメンバーが納得して次のフェーズに進めますし、「ブランディングの方向性を確定させるためのデザインスプリント」が目的であれば予めブランドのビジョン・ミッション・バリューやパーソナリティなどを見直すかもしれないという前提なのでスケジュールも見直す期間も含めてWBSなどのスケジュールを組むことができるからです。

プロジェクトに適した手法を選ぶことがプロジェクト成功の鍵。

少しお話がプロジェクトマネジメント寄りになってしまいますが、プロジェクトマネジメントの知識体系と言われる「PMBOK」の書籍はご存知の方もいらっしゃると思います。
PMBOKは、2021年に第7版がリリースされましたが、第6版までは安全なものづくりの観点を主とした内容から、第7版よりいかに価値を創り出すかという観点に大きく舵を切っていて、これはプロジェクトにおけるそれぞれのフェーズにどういう意味があるか、そして従来のウォーターフォール型からアジャイル型のプロジェクトにシフトしつつあることを指しているように感じています。

また、多様化・複雑化した社会になってきているため、マーケティングやブランディング活動がより難しくなってきていて、ユーザーの心理や行動も掴みにくくなってきていることは事実で、にも関わらず、冒頭にも記述させていただいたように限られた条件でマーケティングやブランディングを素早く進めていかなくてはならない状況でもあると思いますので、今回はスピーディーなアウトプットと検証を行うことができるデザインスプリントをご紹介させていただきました。

ただし、ウォーターフォール型で進行する場合が適している場合、アジャイル型でどんどんサイクルを回して小さくスピーディーに進行するのが適している場合、ウォーターフォール型とアジャイル型のハイブリッドが適している場合、プロジェクトによってそれぞれなので、何よりもプロジェクト関係者が一番納得できて、ひいてはユーザーに一番満足してもらえそうな方法を選択していただければと考えております。

トップ